メモ

隙自語

『誰も死なないミステリーを君に』を読んだ

友人の買い物の付き添いで寄った本屋で適当に歩いていたら表紙が少しオシャレな小説を見つけた。
表紙の下辺りに巻き付いてる広告みたいなちっさい紙(業界用語で腰巻とか帯紙と呼ばれているらしい)に「ぼくにできるのはただひとつ 彼女が見てしまった”死”を”現実”にさせないこと。」とおたくクンホイホイなキャッチコピーが書いてあり衝動買いした。オタクなので。

誰も死なないミステリーを君に (ハヤカワ文庫JA)

誰も死なないミステリーを君に (ハヤカワ文庫JA)







あらすじ

自殺、他殺、事故死など、寿命以外の“死”が見える志緒。彼女が悲しまぬよう、そんな死を回避させるのが僕の役目だった。ある日、志緒は秀桜高校文芸部の卒業生4人に同時に“死”の予兆を見た。“そして誰もいなくならない”ため、僕は4人を無人島に招待、安全なクローズド・サークルをつくった。だが、そこに高校時代の墜死事件が影を投げかけ、一人、また一人と―これは、二人にしかできない優しい世界の救い方。


引用:https://www.amazon.co.jp/dp/4150313199/ref=cm_sw_r_tw_dp_U_x_c46uCbNVQ8KKM


全然関係ないけど、たかが読み切り小説1冊のために公式サイトとか作らないみたいで、こういうあらすじって、手打ちするか通販サイトの紹介文から引っ張ってこないといけないのすごい面倒。Amazonから持ってくると負けた気分になる。






感想

これからこの本を買う人が読んでいる可能性を考慮して、なるべくシナリオの核心に触れるようなネタバレは書かないけど、そのせいで多少抽象的な評価になっている。ゆるして。

















先に結論から言うと、客観的に評価して10点満点中7点だった。
自分はミステリーをあまり読んできたことがないので偉そうなことは書けないけど、少なくともエンディングにカタルシスはなかった。
話の筋は通っていると思うし構成も悪くないけど、尺が足りなかったのか、種明かしの部分が駆け足すぎる。
「この小説はミステリーたり得ている」かどうかはミステリーに疎い自分にはわからなかったけれど、「その結末はどうなんだ」と思わざるを得ない結末だった。筋は通っているが読み物として面白くない。
伏線はいくつかあったが、その伏線をすべて注意深く頭に入れていても到底想像しないであろう特殊な結末だったため、伏線の存在意義がわからない。
結局『ミステリー』なのか『ミステリーのような別の何か』なのかがわからない、どっちつかずな作品だな、という印象だった。



でも評価できる点もあった。

まず、主人公の佐藤と恋人の志緒の掛け合いが良かった。”関係性のオタク”なので良い関係の2人組がいる作品を好きになりがち。

「浮気だよ、きっと。男なんて、買ったピザを食べていても、横からこれどうぞっておいしそうなピザが差し出されたら、それにも手を出しちゃう生き物なんだから」
「……それは、君も手を出すよね?」
「そうなのよ、そういうことなのよ」
どういうことなのよ。

↑これ好き

好みが別れそうではるけど、詩的な表現や多少の下ネタなども交じっていて、個人的には日常会話がとても面白かった。



この作品は前半部分のショートストーリーと後半のメインストーリーの2部構成になっている。

後半の感想は自分が最初の方に書いた通りなんだけど、前半のショートストーリーはとても良かった。
テンポもよく、カタルシスもきちんと得られた。

佐藤と志緒が話すときのテンションが現実的じゃない、小説的な話し方をしているところにも惹かれた。
例えばとあるカップルが別れる別れないの話になったとき、現実ではだいたいどちらか(もしくは両者)が怒って話し合いにならないか、どちらも感情的にならずに優しい物言いで話し合うパターンが多いと思う。
でも佐藤と志緒の場合、感情的にならず、優しい物言いをするわけでもなく、他人行儀な口調でお互いが淡々と事実のみを述べ続けていて、言葉遣いや空気感に魅せられた。






あとすごい微妙なところなのだけれど、
婚約者が浮気していて自殺しようとしているメンヘラに対して

「誰でも恋をしているときは、それが運命の恋だって思うんだよ。恋をするたびにみんなそう思うの。運命の恋だと思わずに、恋愛をする人なんていない。毎回が運命の恋なの。だから」
「その恋が終わっても、また、次がある」

と言うシーンがある。
だけどこんな非常に個人的な価値観を伝えても「お前がそうだっただけだろ」としか思われないし、その程度の言葉で自殺をやめて前向きに生きられる人間は本気で自殺しようとしたりしない。
複数人と本気で交際したけど、結局常に「最初に付き合っていたあのひとの方が満足度が高かった」と思いながら別の新しい人と交際している人が世の中にはたくさんいるから、「何を言ってるんだこいつは」としか思えなかった。












総評


メインキャラクターの2人がとても良いキャラクターなので全体的に読んでいて楽しく、話の筋も通っている。
でもエンディングのカタルシスの無さのせいで作品の評価を大きく下げてしまっているかなと感じてしまった。

でも自分はキャラクターが素敵な作品はそれだけで価値があると思っているから、個人的には結構好きな作品。
そこそこ酷評しておいてなんだけど、もし興味ある人がいるなら一度読んでみてほしい。素敵な作品だった。














久々に小説を読んで、良いところと悪いところをしっかり見分けながら読めて楽しかったし、純粋に紙媒体の小説の良さを思い出せたので買ってよかった。


たぶん次は辻村深月の『かがみの弧城』のレビューを書くと思う。書きたい。今読んでるけどめっちゃくちゃ面白い。

かがみの孤城

かがみの孤城